書きたいことと、実際に書くことの均衡がとれない。
情報と同じように感情も。次から次へと湧き出しては遠くへ追いやられて消えてゆく。
消えぬようにと心に留めたりノートに書き残したりしたとしても、やっぱり何事にも ”旬” はある。
”旬” を過ぎてしまえばそのままのかたちで表に出すことは恥ずかしい。
それでもどうしても表に出したいというのであればそういった感情が完全に静まって一度深く水の底まで沈殿させてしまうしかないのだろう。
そうしていつの日か本人も忘れた頃にあちら側から勝手に、自ずと立ち上がってくる時を待つともなく待ち続けるということか。
待ち続けたところで本人や周りが期待するようなそんな” 何かしら ”が本当に立ち上がってくるかどうかすらわからない。
ある種の世界ではそんな風に予測も確証もないまっさらな状態で、システマチックに支えられた世の中に立ち向かって、背を合わせたように、生きている人も少なくはないのかもしれない…。
今月号のAERAに掲載されていた鈴木敏夫さんの書が印象的だった。
”どうにもならんことは どうにもならん どうにかなることは どうにかなる”
そりゃそうだ。と思ってしまうようなこの言葉。
この人が使うことでなんだかただならぬ魔力を感じてしまう。
ニュースのトピックスでは大いに注目されているスタジオジブリ解散、製作部門解体発言。
いちアニメスタジオの一挙一動が、これほどまでに世間の関心を寄せ集めることになってしまった。
元はといえば、ナウシカの映画化にあたり高畑氏がプロデューサーになることの条件として出した制作拠点となる場所づくり。
それが今のスタジオジブリ。
宮崎・高畑両氏が制作に専念出来るように作られたスタジオであれば、その本人の不在によって、今後の在り方を検討するのもとても自然な流れのようにも思う。
ひとつの会社や企業を立ち上げるとき、長く続けていく・繁栄させていくためにあらゆることをシステム化させたりマニュアル化させたりするのだろうか。人が入れ替わることを前提として。
会社ありきのスタジオジブリではなかったジブリが、これからどんな方向へ向かうのか。
もしかしたら長編アニメーションのかたちはもうとらないのかもしれない。
今ある作品をあらゆるものから守り抜いてもいかなくちゃいけない。
息子の吾郎さんはAERAの中でこう話してる。
「簡単にゼロにはできないんですよ。版権だって、宮崎駿の息子の立場で言うと、将来、権利が誰かの手に渡って、縁もゆかりもない人間が金を稼ぐためだけに作品をひどく扱うのは許せないんですよ。美術館もあるし、簡単に解散なんてできません。」
切実に物語っている。残された人の運命というか使命というか。
養老孟司さんは川上量生さんとの対談の中で、ジブリの作品は古典になっていくと言っている。川上さんはある意味で「罪を起こすきっかけ」をつくったのかもしれない。とも言っている。
全貌が見えてくるのはもっとずーっと先のこと。
7月号の「熱風」では渋谷陽一さんが「長編アニメーションでは難しくても、ファンタジーは作りたいという宮崎さんの思いの結晶」という長いタイトルの特集の最後、こんなことを口にしていた。
”どうせなら、どこかの企業から100億円くらいの資金提供を受けて、宮崎さん自ら「宮崎駿らんど」のようなものを造ってみてはどうなんでしょう。ディズニーランド以上のジブリランドを造ってくれたら最高ですね。”
あながち本気に近い提案のようにも思えた。そこで働く人は退職後のおじいさんおばあさんがいい。
でもそれよりもっと現実的?なのは養老さんと宮崎さんの対談本「虫眼とアニ眼」の冒頭にカラーページで掲載されている荒川修作さんと宮崎さんの保育園を中心としたイーハトーブ町の構想なんじゃないか。
”これは夢ではありません ぼくらの心のふるさとが、どこにあるかを考えれば
実現する力も意味も、この国の人々は持っていると思います” 02.5.31
宮崎さんの分身、ブタ崎さんが「つくろう!」と意気込んでいる。
最後に。
色々な人の言葉をうまく解釈して、散々なことばかり憶測で書き散らしてしまいました。
でもそんな風になったらいいなという願いがあります。
こんな町が出来たらひとりひとりが一生懸命守っていこうとするような気もします。
こんなのユートピアだ!と言ってしまえばそれでおしまいです。
でもなんかもう、そっちの方がいいんじゃないかと思います。ひとつのミス又は過ちでメディアや世の中から徹底的に押し寄せられ、自ら命を絶ってしまうような世の中のほうが異様と思えてなりません。
拠り所はたくさんあったほうがいいに決まってる。たくさんの拠り所をつくるためにはほんとうの意味での多様性がどうしたって必要になるのだと思います。
けなげにしたたかに、雑草のように生きていく力が絶対に必要なんだといま、感じています。
「進んで貧乏になる決意、できましたか?」
「・・・・・・。」
答えはまだ。ずっと先。
それではこの辺で。
中條 美咲