先日公開2日目のレイトショーにて、『思い出のマーニー』を観てきました。
それから数日のあいだ。この作品についてあれこれと考えを巡らせているのですが、一向に立ち位置が定まらずにどうしたらいいのか置き去りにされた状態が続いています。
記録・過程として。そのような宙ぶらりんの「いま」を少しばかり主観と客観を混ぜこぜにして、書き残してみようかと思います。
”「輪には内側と外側があって、私は外側の人間。」「私は、私が嫌い。」”・・・
物語りはこのような場面から始まる。主人公・杏奈は周りにとけ込めず、自分の内側の殻に閉じ籠った12才の女の子。
主題歌を歌うプリシラ・アーンの「Fine on the Outside」は彼女が高校生の時に作った曲。「孤独を感じ、自分の中に愛というものを見出そうとしたあの頃の私が書いたこの曲は、杏奈の状況そのものだと気付いたからです。」とこの曲を提案した理由がコメントとして公式HPに寄せられている。
少年の気持ちはちょっと想像がつかないけれど、少女の気持ちなら少し想像できる。かつて、わたし自身にも12才、15才、17才・・・という時期があったから。
”かつて”という程昔ではないのかもしれない。せいぜい10年前とかその程度だ。
大人にとっての10年は早い。本当に瞬く間に過ぎ去ってしまう。でも、少女にとっての1年はものすごく長い。1年先なんて果てしなく長くて途方に暮れてしまう。その一日、その瞬間が自分の人生の全てなんじゃないか。という錯覚のような現実に溢れている。
自分がこの映画を手放しで受け止められなかったのも、既に傍からみたら紛れもない”大人”という社会のしくみの片隅に置かれた魔法が解けつつある人間になってしまったからなのかもしれない。
だからこの映画は暫定”大人”が観たらなんとも言いがたい不愉快な心地さえ漂うのだろう。いくつかのレビューを見た中でも、評価は大きく二分しているような気がする。
好きな人はものすごく好きだろう。この世界観にどっぷり浸ることができたらきれいで美しくとても心地がいい。
それはそれで少しばかり危惧してしまう自分がいる。
物語りは最終的に瞬く間に解決の糸が解けリアルへと勢い良く引き戻される。結果が「なるほど、そういうことだったのか」と納得もできるので主題歌の「Fine on the Outside」が流れてくる辺りなどは込み上げてくる気持ちも大きい。
湖をボートで漂う場面はとても美しい。10代の男女の恋愛などを描いたドラマや映画などとは比べ物にならない位、密度があって、艶かしい。
サイロの場面は、小さな子どもにはトラウマになってしまうのではないかと思う程に恐ろしかった。馴染み過ぎているのか、主題歌以外の音楽の印象は全体的に薄い。
場面場面で観ると、美しく楽しめる作品ではあると思うけれど、全体を通しては何らかの引っかりが残る。
多くの少女たちにとっては共感でき、救いになるのかもしれない。と同時に米林監督は少女に寄り添い過ぎてしまったのではないかとも思う。
もちろんそれが、彼の強みなのだろう。ただ、今までのジブリ作品(主に宮崎作品)では、主人公を囲む周りのキャラクターたちがとても生きて生かされていた。それに比べると、今回は杏奈とマーニーという二人の主人公の中で物語りが美しく完結してしまっているようで、その辺りにわたしはなんだか漠然としない心地が残ってしまっているのかもしれない。
どちらにせよ、私は原作も読んでいないので原作を読み、改めて観ることによってまた受け止め方が変化するのではないかと思う。
少し心配なのは興行収入的にはなかなか厳しいのではないかなというところ。
最後に
「永久に— 。」 という言葉がわたしの中に張り付いてしまった。
「永久」という言葉は現実の世界ではそう易々と口には出来ない。口にするのが夢の中で少女たちだったとしても、その言葉は強く心に残る。「永久に」
米林監督は企画意図の中でこのように語っています。
”僕は宮崎さんのように、この映画一本で世界を変えようなんて思ってはいません。
ただ、『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』の両巨匠の後に、
もう一度、子どものためのスタジオジブリ作品を作りたい。”
これは紛れもなく宮崎監督への挑戦状のように感じました。挑戦状であり、巨大な壁であり、避けては通れない現実。
宮崎監督は映画の力で世界を変えようとしていたのか・・・。宮崎さんはこの作品を観て何を感じたのか。
いずれにしてもスタジオジブリの今後にますます注目して、最後まで行く末を追い続けていきたいと思いました。
米林監督はとても繊細で粘り強い根性の持ち主だと思うので、今後オリジナル作品を作るようであれば、そちらにも期待です。
おまけに。
今回改めて風立ちぬとかぐや姫の企画書も読み返したので貼っておきます。
人それぞれに感じる「マーニー」があるかと思いますので、迷っているようであれば是非劇場で杏奈とマーニーの世界にどっぷり入り込んでみて下さい。
それではこの辺で。
中條 美咲