葉と幹、鉱物、波、背骨…〈シンクロする創造の源泉〉

蝉が鳴いている。今日鳴き始めた彼らは懸命に鳴き続け、子孫繁栄という使命を果たし7日後には死んで土に還る。

それまでどれほど長い間土の中でこの日を待っていたのかを、わたしは知らない。

 

スペインを初めて訪れたのは昨年の10月。新婚旅行という名目であり、最初で最後かもしれない赤褐色の乾いた大地と広大なオリーブ畑。

そんなことを思い返しながら、六本木・森アーツセンターギャラリーで開催中の「特別展 ガウディ ×  井上雄彦 − シンクロする創造の源泉 − 」に行ってきた。

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                 ー画像:公式HPより

 

スペインといえば、誰しもがまず思い描くのはアントニ・ガウディのサクラダ・ファミリアなのかもしれない。1882年の着工から132年目の今日、未だに完成せずに現在進行形で増築され続けているという、世界でも類を見ない象徴的な創造物だろう。

 

はじめに断っておくと、元々ガウディという建築家自体にわたしはそれほど興味を惹かれていなかった。スペインを旅する際も、ガウディ建築はメインではなく、せっかくなので見ておこうか。という程度の心持ちで、マドリッド−トレド−コルドバ−グラナダを経由して、旅行の終盤バルセロナのサクラダ・ファミリアを訪れることになった。

先月「バガボンド」を数年ぶりに改めて読み返し、「空白」という休載中に書かれた作者自身の本を読み、井上雄彦という人間の内面に興味を惹かれた。
そのタイミングでこのような展示が開催されると知って、純粋にまず思ったのが「どうしてガウディ?…」ということだった。

スラムダンクやバカボンド、リアルなどの作品からは建築家・ガウディとの接点がなかなか見つからない。

見つからない・想像がつかない・わからないという時、人はさらにその部分を深く掘り下げてみたいと感じてしまう。

 

なのでこの特別展は単なる「アントニ・ガウディ展」ではなく、井上雄彦と ”シンクロした” ガウディ展という時点で、大きな反響を生みだすのだろう。

 

スペインで実際に「カサ・ミラ」「カサ・バトリョ」を目撃した際、すごいとは思っても正直これが素晴らしい、素敵な建築なのかどうかという点ではよくわからなかった。

サクラダ・ファミリアはその迫力や、世界中からの観光客の多さに圧倒された。わたしが訪問した2013年10月には内部も既に完成しており、外観の形相からは想像もできない、ステンドグラスが張り巡らされた内空間は現実とは遠く離れた夢の中のような美しさだった。

そうはいっても、大概の感動はその一瞬、その期間で終わってしまう。

 

そして今回の「ガウディ × 井上雄彦 −シンクロする創造の源泉 − 」。過去に自分の目で見たことと、井上さんの目と心を通して描き出された世界を通じてようやく少しだけ、以前よりもアントニ・ガウディという生きた人間の内部を感じることが出来た。ほんとうに少しだけ。

 

 

最後に。

展示の中でもキーワードとなってくるガウディの言葉たち。

「人間は創造しない。人間は発見し、その発見から出発する。」

「偉大な本、常に開かれ、努力して読むに値する本、それは、大自然の本である」

「独創性(オリジナリティー)とは起源(オリジン)に戻ることである」

この展示に行かなければ通過しただけで終わっていたのだろうガウディに、もう一度向き合うきっかけを与えてくれた井上さんやいろんな巡り合わせに感謝です。

2026年には全てが完成する予定らしいので、完成したら再び訪れることが出来たらいいなぁと(叶うかどうかは別として)思いました。

きっとガウディの作品自体、大人のように頭で考えようとする相手より、全身で感じていく子ども達のほうがよっぽど受け入れやすいものなのかもしれません。

有機的で大自然でそこに説明は不要。

それではこの辺で。

中條 美咲