先日、雨の強い木曜日。東京国立博物館–平成館–で開催中の『栄西と建仁寺』展に行ってきました。
前々から楽しみにしていた特別展でもあり、この日ここに行こう!と予定を立てていました。
その日は朝から胃の不快感(気持ち悪さ)があったのですが、そのうち治るだろうと楽観して準備をし、上野に向かいました。
上野に着くと雨にも関わらず、大勢の花見客の方で賑わっていて少し驚きました。
桜が散ることは知る由もなく雨は強まり、風もありコートの裾の部分はすっかり濡れてしまいました。私はあらゆる首を起点にどんどん体が冷えていくのを感じました。
普段から厚着思考の身としては、外出する際に素足に靴下にするかタイツを履くか随分せめぎ合い、その結果タイツ+靴下でいこう!というこの時期にしては徹底した防寒対策をとったつもりではありましたが、結果としては完全に負けてしまいました。
そして、この日改めて再認識をしました。
私の体は外界(特に風と寒さ)の影響を非常に受けやすいと。
皆さんそれぞれ持って生まれた性質、日々の生活で作り上げた体質や感情。それぞれのバランスによって細かく見ていけば自分の弱点に行き当たると思います。
私の場合は経験上、首から冷えが入り込み、一度体の芯まで冷えてしまうと回復までに相当苦労します。朝・昼と食事を抜いていたこともあり、熱源が生み出せないため屋内に入ろうとも回復する気配はありません。
しかしそんな体調の異変には気付かないフリをして、中谷美紀さんがナビゲーターを務めるオーディオガイドを借りて入場します。
まずそこに登場するのは ”禅” ”茶” ”建仁寺” 全てが日本に広まるきっかけとなった明庵栄西(みんなんようさい)座像です。表情がとても朗らかで静かで、緊張感や張りつめた感じというよりは安心感に包まれるような表情で鎮座しています。
栄西は元々は密教の厳しい戒律の元、延暦寺にて厳しい修行をしていたようですが、28歳と47歳のときに修行のため渡宋して、茶の文化、禅の教えを日本に広めたいと持ち帰ったそうです。しかし当時”禅”を広める上で既存勢力からの抵抗があり、京都で広めるのは難しいと一度、幕府がある鎌倉に下向して北條政子建立の寿福寺の住職となり、源頼朝の外護により京都に建仁寺を建立するに至ったそう。
今も昔も新しいものを広めるにはとても苦労したんだなあ。と思いながら、進みます。
全体の展示の4分の1にも満たない辺りから徐々に気分の悪さが増してきました。
寒さと胃の不快感に加え、呼吸が浅くなり、普通に展示に沿って進み、説明文を読むことすらままならず、とりあえず近くの椅子に座り込みながらそこから見える範囲の作品を見て、オーディオガイドを聴きました。
結果的にはこのオーディオガイドが本当にいい働きをしてくれました。
序盤からの冷えや体調不良で集中力は削がれ、中盤以降は具合の悪さが増していく中、いかにして回りきるか、まるで苦行でしかない・・・といった状況の中、耳から伝わる中谷美紀さんの声が本当にいいんです。声だけなのに、時代や場所を一気にタイムスリップして(正気でなかったこともあり)この世界を体験できた。というような感覚になりました。
普段私たちは生活している中で、無意識に視覚から得ている情報が87%(または83%)を占め、後に続く感覚は聴覚7%(11%)・触覚3%・嗅覚2%・味覚1%でしかないとのことです。
これには正直驚きました。
残念ながらこの日に限っては自分から能動的に見よう、読もうと視覚に頼る程体力がなく、受動的に聴こえてくるガイドから得る情報がメインとなり、そこから新しい感じ方のようなものを少しばかり体感出来たので、体は限界でしたがとても新しい経験になりました。
書きながら結びつきました。近年流行っているダイアログ・イン・ザ・ダークがまさにそれです。
最後に。
しばしば、私は見ることに躍起になりすぎてしまいます。
どれだけ数多くのものをこの目で見て、体験したか。それが自分自身の価値基準になってしまっているような。
もちろん”百聞は一見にしかず”という諺もあるくらいなので、実際に「見る」ことの重要性は大きいのでしょう。
しかし過去を思い返したときに、記憶としてより鮮明に残っているものの多くは視覚以外の感覚からインプットされたものが多いかもしれないなあとも思いました。
「見る」と「感じる」はイコールではない のかもしれません。
この辺はぼんやりとした感覚でしかないのであまり上手く言葉に出来ず、全体的にまとまりのない文章となってしまいましたが・・・
最終的に強く感じたことは、美術館などは自分の想像以上に体力・エネルギーを消耗する場所なので、体調が万全の状態で臨むに越したことことはないということです。笑
未だに回復しきれていない私の胃を横目に『栄西と建仁寺』展は5月18日まで開催されているのでご興味のある方は是非、”禅”の世界を全身で感じてきてみてはいかがでしょうか。
その際は合わせてオーディオガイドを借りられることを強くおすすめさせて頂きます!
それではこの辺で。
中條 美咲