みなとみらいの映画館、109シネマズMM横浜の閉館が今週末に差し迫っている。
閉館に伴って過去10年間に放映された作品のリバイバル上映が行なわれているのでひょいひょいと自転車を走らせて、行ってみた。
スタッフさんおすすめの16作品はどれもワンコイン(500円)で観賞できる。一日一回のみの上映で最終日の25日まで時間を入れ替えて開催されているようなので気になる作品がある方は散歩がてらに少しだけ、横浜まで足をのばしてみても良いかもしれない。
*
『チョコレートドーナツ』と『ミッドナイト・イン・パリ』どちらにしようか迷ってなんとなくの直感で後者にした。
今回は芸術のパリ・愛 −amour –のパリの魅力をその世界に入りきったつもりになって、綴ってみたいと思う。
わたしは映画を観ている最中から、その街が持つ時の流れや匂いや温度。そこで生きた彼らとその時代が生み出した感性のぶつかり合いの……すっかり虜になってしまった。
やっぱりパリは何度でも、他所の人々を恋い焦がれさせてしまう程、熱くて甘い魅惑がふんだんに詰まった都市だった。
ここでは本当にロマンチックな物語が繰り広げられていく。夢なのか、幻なのか、実際のところはわからない。わからなくっても構わない、それは真夜中の物語だから。
舞台は2010年。
パリは雨がよく似合う。
いつまでもゆっくり時間をかけて、どこまでも続く夜道を散歩する。
ここでの恋愛はひとつとは限らない。物事はとても複雑に入り組んでいる。
真夜中のクラシックカーに同乗したことをきっかけに、夢にまでみた黄金時代へ旅をする。
かっこ良く言えば「旅」だけど、実際には「迷子」だった。
そこには憧れのフィッツジェラルドやヘミングウェイ、ピカソやダリが集結している。
当時のパリ(1920年代)はまさしく黄金時代そのものだった。
彼はそこでひとりの美しすぎる女性に出会う。
ピカソやモリディアーニの愛人で絵のモデルをしているアドリアナ。
それまで本能よりも理性で生きていたギルも少しずつ、パリの媚薬に放浪されていく。
現実なんかそっちのけで、毎夜繰り出すミッドナイト・イン・パリ。
真夜中のパリを散歩しながら、彼は言う。
どんなにすばらしい芸術作品も、この街の美しさには叶わない。
それほどまでに、多くの人々を魅了し続けた場所。
自分たちにとって夢のような黄金時代も、その当時を生きている張本人にしてみると、とても退屈でつまらない時代。1920年代に生きる彼女の憧れは、1890年代のベル・エポック・・・・
過去はどこまでも輝かしい記憶として憧れの的となる一方で、その当時に迷い込んでみると、過去は過去。抗生物質もなければ国民健康医療保険もないそんな時代。輝かしい記憶はより華やいだ記憶として映り、いつのまにか理想化されて。
いつだって現代は「退屈でつまらない。」
それに気付いた彼はきっと、人々を魅了して止まない小説家としての第一歩を、2010年 雨のパリから踏み出すことになったのではないかなぁと。帰り道、牛蒡と大根を尖らせたリュックを背負い自転車を走らせながら、わたしは想像したのであった。
**
2015年現在のパリは、いつにもなく緊張した空気感が漂っているのかもしれないけれど、
いつまでも人々を魅了し続ける都であり続けてほしいと願う。
それは日本でも、同じこと。
それではこの辺で。
中條 美咲