夏はどうしてもジブリに寄ってしまう。先日の「もののけ姫」とともに私の夏が始まりました。
そして夏と共に台風がやってきます。風と雲の流れがぐんぐん早まって。
”風の通り道” とか、”風の帰る場所” とか、”風立ちぬ” とか ”風の谷” とか・・・・
宮崎駿さんの作品の多くには ”風” というキーワードが登場する。
大体、風の生まれる場所や風の帰る場所をいざ考え始めたら、それこそ日常生活とは遠くかけ離れたところへ行ってしまうんじゃないか。実体のない風と、その辿る道、そして帰る場所・・・
ということで今回は「続・風の帰る場所 映画監督・宮崎駿はいかに始まり・いかに幕を引いたのか」という本について、少しばかり書いてみようと思う。
この本は2008年『崖の上のポニョ』から2013年『風立ちぬ』に至るまで。雑誌「Cut」に過去、掲載されたインタビューの記事を総まとめにした一冊になっている。
インタビュアーを務められているのは株式会社ロッキング・オンの社長であり雑誌「Cut」の創刊もされている渋谷陽一さんだ。
この本の魅力はなんといっても、渋谷さんがかなり!突っ込んだところまで”宮崎駿”という人間が抱える内面に対して深く掘り下げて訊いていき、宮崎さんをとことん(いい意味で)捲し立てていくところじゃないかと思う。(乗ってくるともはや質問ですらなくなる。渋谷さんの独断と、強い意志、又は断定に変わっている)
会話のリズムといい攻め方といい、なんだかテンポのいい漫才みたいでとてもおもしろい。攻めれば攻める程、宮崎さんの「いやいや」という否定の言葉とは裏腹の気持ちがぽろぽろとこぼれてきたりするのでほんとうに「渋谷さん恐るべし!」と思ってしまう。
例えばこんなやりとり。
これ以上やると暴走して止まらなくなる
— 宮崎さんのお話をずっと伺ってると、主人公が男の子の映画も、少女の映画も、両方とも作れそうだと思うんですが。
「そういうフェイントには僕は引っかからないですから」
— でも作れそうですね。
「いや、麻呂とかですね、今は(宮崎)吾郎も準備に入ってますけど、そういう連中が映画を作ってちゃんとお客を集めてくれて、だったら、じじいの趣味なんだからしょうがねえよって鈴木さんが言いながら。『ポルコ・ロッソ 最後の出撃』かなんかをフッて作れたら、幸せなんですけどね。それはもう道楽ですから」
— いや、でも、表現者・宮崎駿は絶対そんなことをしないと思います。
「いやいや。そういうことって言ってほしくないです。僕はだって、この2年間で2本の脚本を書きましたけど、その間に、一番熱心にやっていたのは模型雑誌の連載で。そこくらいでしか理解されないんですよ、本当に僕がやりたいことなんかは」
— ポニョは確かに究極まで行ったけど、やっぱりアブストラクトっていうか、前衛だったと思うんですよね。その点、つまり芸術的な面ではすごく優れていたけれども、やっぱり宮崎さんは絶対にその先に行きたいと思ってるんですよね。
「いや」
— いや、だってそうやって作家的な必然性はなくて、俺は模型のことだけやってれば幸せだって言う人は『ナウシカ』のマンガなんて絶対に描けなかったわけだから。
「あの時は、他に仕事がなかったんですよ。」
— いや、やっぱりアウトプットがないと絶対に死んじゃう人だと思うんですよね。だからきっと、両方作るんですね。ていうか、両方楽しみにしてます。
「年寄りは時間がないんですよ、本当に忙しいんだから、朝起きた時から1日ずっと」
— 大丈夫ですよ、今、男でも85や6や7まで生きられるんで。そうするとあと3、4本は撮れるんじゃないですかね?
「あのですね…。『自分が年金受給者になるために、あと7年かかるから。宮さん7年は仕事やって!』って言ったスタッフがいますけど」
— (笑)。
「そんな都合良く出来るかっていう(笑)。日々、手はかじかみね、目は衰えていくんですよ。(中略)実際にひとりでやってると、何度も思いましたから。これ以上やると暴走して止まらなくなるってね。それはもう……ま、暴走したってしょうがないもんね」
— (笑)
(中略)だからやっぱり、『ここから先は君がやりなさい。僕はもう手を出さない』っていうのが、自分に対する正しい判断なんです。そこでやらなきゃいけなかったら、そりゃあ、全力でやりますよ。中途半端にやると、『それ違うんじゃない?』ってなりますから」
こんな感じで。ぐんぐん食い込む。一向に引くことなくとことんまで迫っていく渋谷さん。読んでいるこっちがドキドキしてしまう。
そして最後の辺りで宮崎監督が否定の否定の裏返しの本音をぽろっとこぼす。
”宮崎駿のイメージ”という世間的に完成された外側から核心には触れずに作り上げられた殻を気持ちよく突き破ってその先にある生身の”宮崎駿”という人間を浮き彫りにしてくれる。
素晴らしいなと!これはきっと渋谷陽一さんだからこそ為せる技なのだろうなと。この本の至る所で、こんな具合にとても白熱しながら話が深まっていくので本当に面白い。
これほど相手(聞き手)によってたくさんのものが引き出されて露になってしまうというのも、インタビュー形式の最大の魅力でもあり、こわさでもあるなぁとつくづく感じつつ、永久保存版の一冊だと改めて感じたのでした。
最後に。
昨年の引退と共に、宮崎監督は第一線を退いてしまったと思い込んだら大間違いで、わたしはまだまだこの先も 監督ではない、”人間・宮崎駿 ” から目が離せないと思っています。
今までひたすら机に向かい続け、気付いたらとんでもなく巨大でどうしようもないものたちを一気に背負い込んでしまってきた宮崎監督は、一旦その膨らみ過ぎた荷物を自ら下ろし、”人間・宮崎駿 ”に戻ったのだろうなと。
渋谷さんのいうように、まだまだ85、6、7まで・・・笑
期待してしまいつつ、期待を裏切ってほしいとも思いつつ、いつまでも宮崎駿さんを拠り所にし過ぎてもいけないなぁと。自分の足できちんと今を見据えてその先へいかなくちゃと思うのであります。
本の内容に戻って、個人的には作品とは関係ないところで何回か出てくる「バスの話」がとっても好きです。駿さんの魅力が爆発しているのでニンマリしてしまいました。そして「描きたいものは目が回るほどきれい」という章で最後にお話されていることがすごく印象に残りました。
クルミわり人形展や、麻呂さんの思い出のマーニー 、あしたのトトロも楽しみ!というところで、終わりにします。
それではこの辺で。
中條 美咲