流れる血は赤く、命はとてもあっけなくー世界報道写真展に行ってー

先日のこと。

髪を切りに行ったついでに、東京都写真美術館に行くことにした。

東京都写真美術館は常時3つの展示がそれぞれ開催されており、どれにしようか着いてから決めようという気持ちで向かった。


佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない
スピリチュアル・ワールド
世界報道写真展2014

今の期間中は上の展示が開催されている。

メインは佐藤さんなのだろうな。
日本での古来、森羅万象「八百万の神」といわれるものや目に見えない精神性を写し出したスピリチュアル・ワールドも捨てがたい・・・
でも結局、複数の展示を見るには結構なエネルギーが必要だろう。ということで、3番目の「世界報道写真展2014」のみに絞ることにした。

 

世界報道写真展はその名前の通り、去年一年を通して、撮影された災害、事件、事故、社会問題やスポーツ、自然、ポートレートなど”世界報道写真”という幅広い括りの中コンテストが行われ、その中で選ばれた作品が展示されている。

パンフレットには約45の国と地域、100都市以上で1年を通して開催されると記載されている。

以前は確か震災が起きた翌年に足を運んだ。そこには多くの、津波や原発事故の写真が選ばれ展示されていたように記憶している。

ちなみに今回の写真展では日本の写真は一枚もなかったと思う。

 

報道写真とはその範囲はとても幅広い。目を背けたくなるような(国内であれば規制がかかり、公にされないような)事件や事故の写真もあれば日常生活の一部を切り取ったもの、自然の姿など。何が指針になっているかといえば、”報道”という以上、中立的にありのままを切り取った作品ということなのかもしれない。

しかし中立というのは本当に難しい。

その写真、その場面、その人間を選んだ時点で最初のフィルターが出来上がる。
中立の立場を取りながらも、きっとそこには撮影者の伝えたいことや意図が存在する。

私たち受け手は単純に、目の前の一枚の写真からその国の情勢や在りようを想像し、イメージというフィルターを作り出してしまうかもしれない。

今回の審査委員長を務めた方の言葉はこのように記されていた。

”私は審査員団にこう問いかけました。
賞を与える写真のテーマには序列があるべきか?あるならどんなテーマだろう?
こう聞いても良かったでしょう。
「全く先入観なしに審査したら、我々はどう選ぶだろう?」
写真としては平凡でも、受賞に値するテーマや事件があるだろうか。
それとも、テーマには重要性を感じなくても、質の高い写真に賞が与えられるべきか?
個人への人権侵害と、中東やアフリカの戦争は、アフガニスタンや米国の異性への暴力より重大なのか?
もしテーマに対し賞を配分すれば倫理と哲学の問題になり、写真コンテストとしての成功は望めません。私たちは優れた写真に賞を与えることを唯一の指針とすべきなのです。”

ゲーリー・ナイト 米国 フォトグラファー

 

私が特に印象的だった作品はコンゴ共和国の同性愛者たちの日常を切り取った作品で儚げに手を触れ合う男性二人の写真や、ネルソンマンデラ元大統領の遺体を収めた棺の公開安置に訪れた女性の写真、伝統的な小規模のクジラ漁で捕えられたクジラから流れる血の赤さだった。

エメラルドブルーの水面と真っ白い雪渓のなかにまるで墨が流れ、ペインティングをしたかのような幻想的な写真が美しいと思ったらそれが”化学工場からの廃液がポーランドの風景を汚している”産業による環境汚染の深刻さを写し撮った作品だったりもした。

そこに写る人も写らぬ人も、人以外の自然や動物も同じように生きていて、あっけない程簡単に死んで(滅びて)いく。そしてそこに流れる血は驚く程 ”赤い” ということを今回の写真展で強く感じた。

 

 

最後に。

人間の命の尊さというけれど、世界では命の尊さなど程遠い価値観でいとも簡単に殺したり、殺されたりが今も尚続いているようです。

そんなことは遠い海の向こうの話で何も知らずに平穏に、自分のことばかり考えて暮らしているのもなんだか違う気もするし、だからといってそのようなことばかり考えたところで何も生み出しはしません。現実離れというやつです。

なかなかお堅い印象ではありますが、見に行く価値は大きいと思います。

言葉で語る以上の強く刺さる作品ばかりです。

そして感情を抜きにすればとても美しい作品ばかりです。

 

ご興味のある方は8月3日(日)まで東京都写真美術館で開催されているので是非足を運んでみてはいかがでしょうか。
その後は大阪、埼玉、京都、滋賀、大分、広島、山形と日本各地で開催されるようです。

 

百聞は一見にしかず。

何も生み出せないかもしれませんが、まずは知ろうとするところから・・・

 

それではこの辺で。

中條 美咲