大丈夫。まだ間に合います。

いろんなことがありました。
人生ってどこまでもどこまでも深く広く入り組んでいて、深めれば深めるほどに、暗くてしんどくなっていくかといえば、ある瞬間に急に光が差し込んで、びっくりするような開放感を味わうことになったりもして。

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そのどれもが自分ひとりでは行き着けなかった場所であり、出会えなかった人であり、気づけなかったことだと思えば思うほど、ひとつひとつのご縁がとても愛おしいもの・ありがたいものに感じられるようにもなって。

ことばの無力さをひたすら痛感しながらも、こうして稚拙に、ことばを信じて紡いできてよかったと、こころの奥底に、ストンとひとつの小石を置くような気持ちで、この1年間の出来事をするっと振り返ります。

一年前に、新潟県長岡市から探し始めたことばの行く先。
そのことばは、不思議とわたしの心をとらえ、知らず知らず、これまでの原動力の源へと、染み込んでいた。

大林宣彦監督作品、『野のなななのか』の冒頭で言い放たれた清水信子さんのことば。
「まだ、間に合いましたか?ー」。

参照:まだ、戦争には間に合いますかー 長岡花火との出会い(後編)

 

そこから始まったひとつの物語が、ちょうど一年かけて、自分の中で一巡を終えた。

福島県西会津中学校を会場に、西会津「伝統野菜」をテーマとして開催された、森のはこ舟セミナー。映画『よみがえりのレシピ』公開のあと、映画の感想やこれからについてのトーク。福島県立博物館館長で民俗学者の赤坂憲雄さんが語ったことばだった。

「昨日、完成した『会津物語』の身内だけの小さな祝賀会で、遠藤さんたちと、そう話したんです。よかったですね、僕らはまだ、間に合いました。」

そう。「我々はまだ、間に合ったんです。」

このことばを耳にして、しなしな〜と体の力が抜けていくような、ぞわぞわ〜と全身に鳥肌が立つような、目頭が熱くなり、今にも声をあげて泣き出したくなるような・・・そうしたあらゆる感情が自分のなかに沸き起こり、わたしはこれまで以上に、物事の必然性をひときわ強く実感することになりました。

だから、伝えました。会の終わりに。
ずばっと手をあげ、質問ではなく、感想として。

去年の長岡花火から、一年間。
自分なりに求め続け、探り続けていたことば。常盤貴子演じる、清水信子さんのことば。
「まだ、間に合いましたか?ー」。
それが今日ここへ来て、赤坂さんから「まだ、間に合いましたね」と聞けて、ほんとうによかったです。ありがとうございました。

なにがどう一巡したのか、そうした細かい説明はとても難しいのだけれど、わたしにとって、魂を揺るがすような一年がかりの数日間だったことは間違いがありません。

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ここまで導いてくれたきっかけともなった鞍田先生との出会いや、からむしや女性の生き方、ここでの暮らしが究極のデトックスだとお話を聞かせてくれた、渡し舟のゆっこさんとえっちゃんさんの存在。そんな二人を強靭に支える裏渡し舟の船頭二人衆。

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話の落とし所が肝心!と、持ち前のダジャレで場を和ませ、会津民俗を足で歩き倒したようなどこまでもキュートな長生さんや、深すぎる魂の持ち主で、向かい合うことが困難なほどに、強烈な影響を感じてしまった奥会津書房の遠藤さん。

表面の見せ方は変えても、芯を変えない強さを持つべきと語る会津の”知”を買って出たような菅家博昭さんのお話に、「昭和スタンダードTシャツ」でみんなを結びつけてくれたとある宿のまゆみさんご夫妻。町のじいちゃんばあちゃんや、織姫さんや、お宿や行く先々で出会ったみなさん。

はじめは心を開いてくれるか心配過ぎたけれど、一番楽しかったと最後は振り向かずクールに帰って行った水内さんや、アカデミックなのに、朝が苦手で、常ににこにこしながら、本業は首刈り族の研究をしている山田さんのギャップ。

最初から最後まで、付き合って受け入れてくれた久乃ちゃんや奈緒ちゃんなど、福島県の昭和村で、今後も続いていくであろう、大きくて豊かな地縁が生まれたこの夏の旅。

旅って、外側から「ふーん」って、眺めているだけではもったいなくて、これからはきっと、どれだけ濃く深く、その土地の人と直接繋がり、話を聞いて、足繁く通って、関係性を深めていけるか。体験し実感できるか。

そういうスタイルにきっと変わっていくんだろうなぁと、感じたところで、

とりあえず一巡し、終わることなく、また始まるこのことばは、これからまだしばらくは、私たちにとって、大事な大事なテーマになるような気がしています。

「大丈夫。まだ、間に合います。」

 

ローカルスタンダード、今後も益々、各地で灯火をじわじわ広げていきそうな予感です。

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参照:
今、なぜ民藝か? 横軸の広がりから、縦軸の深まりへ。
民藝と、エネルギーからつながるユートピア
エネルギーの選択は、わたしやあなたの哲学そのもの。

 

それではこの辺で。

中條 美咲