昨晩、下北沢のB&Bで行われた「いまなぜ民藝か?ー手のひらから始まる暮らし、そして社会へ」というトークイベントに参加した。
今回お話してくださったのは、4月に『民藝インティマシー』という本を出版された、明治大学理工学部専任准教授 鞍田崇さんとRoundabout(お店)・OUTBOUND(場所)を通して活躍されている小林和人さん。
会場を満員御礼に埋め尽くしているのが、同年代を中心とした世代かつ、そのスタイルはシンプルでありながら皆さんこだわりを持っている。というような方々ばかりで純粋に驚いた。B&Bという場所がすでにそういう場所になっていることは前提だとしても、きっとそれだけじゃない。
一見したらシンプル・モダン・洗練されているという印象を与えるデザインされたものたちと、土着的で愛らしく、完成されているというよりも人の手のあたたかさ、人懐っこさのある民藝・工芸品は畑違いであると私は思っていた。
冒頭で「iPhoneは民藝的か?」「新幹線は民藝的か?」というようなお話が提議されたのだけど、まさにそういうことだろう。
だとしたら、ものすごくこだわりを持って、作家さんとして名高い位置に到達し、昇華されてしまったものはデザインされ尽くし行き着いたものなので、芸術作品であっても民藝的ではない。必ずしも柳宗悦が『民藝美論』の中で定義した9か条(実用性・無銘性・複数性・兼価性・地方性・分業性・伝統性・他力性)を持ち合わせていなければ昔も今も民藝ではないのか…といったところに踏み入らなくてはならず、なんだか渦の中にぐるぐると吸い込まれてしまいそうだった。
それも含めて「なぜいま民藝か?」。いままで培われたきた知識を一歩乗り越えて、知識ではなく素直な反応をもとに、その先の可能性を掘り当てる時期に差し当たっているのがいま、このタイミングなのかしら…。と。
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鞍田さんと小林さんは打ち合わせの中で、「利便性を享受したこの時代において、逆にもうつくることが民藝ではないかもしれない。それこそ荒れた土地に畑を作って耕すことの方が民藝に近しいものを感じ、それはもうものづくりの範疇を超えている。」というお話をされたそうだ。
「民藝の中では昔から住居・空間がセットとして大事に位置付けられてきた。それは民藝を通した環境全体をみること」というお話も興味深かった。「広がりの中でものが生き生きとのびやかであること、そこには包容力があり、間口の広さの中にも奥行きがある。」
小林さんたちの手で、瀬戸内牛窓御茶屋跡を改修したお話を伺い、その行動自体が私にとっては新鮮でとんがりの先端に感じるとともに、そこに地元のおばあちゃんが加わることによって、とんがりとゆるさの共存が出来上がるというか。いまの時代においてとんがりでありながら、長年使われずにあった長屋の間口は広く、奥行きも深くそこに若い人や地元のおばあちゃんたちの手が入り、まあるいなんとも安心感のある場所が生まれたのだろうと想像を巡らせた。
参照:
CAFE DO GRACE
岡山 CAFE DU GRACE 921GALLERYと御茶屋跡 「機能と作用」のお知らせ|Round about
小林さんのお話は限りなく職人的というか、民藝の持ち合わせている『作用』への思い入れも強く、ご自身がそこに求める条件もかなりハードルが高いのであろうなと想像できた。
一方鞍田さんは、元々が哲学専攻ということもあり、どちらかというとそれ自体と距離を保ちながら、全体の流れと様子をあくまでも客観的に捉えようとされているようで、お二人の対極的な民藝への関わり方が感じられて面白かった。(もちろんどちらも私見に過ぎず。)
中でもとりわけ共感を覚えたのは、鞍田さんの二つの視点についてのお話。
『ものの見方と文化には、二つの視点があって、それはおおまかに言えば横軸へ広がっていく量的な拡大・生産と、縦軸に限られた中での濃厚な各々の深まり。近代以降、広がるツールは沢山出来たにも関わらず、深まりの方はおざなりに一面的にものを見すぎて来たのではないか」。「しかるべきものは常に身近にある。」いま一番身近なものの(例えば工芸)佇まいから、僕たちは縦軸に深まっていけるかもよ?』という仮定には痺れた。
そして「かつては1日にして革命的に起こっていた変革ばかりが”革命”ではなく、白黒でも多数決でもない、腰を据えた工芸的な社会変革ができるのではないか。」というところで結ばれたこの対談。
その一方で、柳田國男がみた「山の人生」での愛しさではない労しさの話。
良い方ばかり見て欲しい・見ていたい根性の撤廃と、どちらか一方ばかりに肩入れせずに、全体的にこの深まりの行く末を追っていきたい。
さいごに、発信以前にいかに受け取り・深めていくことを地道に続けていけるだろうかと。
そんなことを思った次第です。
いま、蘇る!ニッポンたてもの探訪(江戸東京たてもの園編)|紡ぎ、継ぐ
それではこの辺で。
中條 美咲